自然鍼灸を実践するために必要な道具について考えをまとめてみる。
大工さんが家を建てるには大工道具がある。
左官さんには左官道具がある。
鍼灸師が鍼灸治療をするにはやはり道具がいる。
大工さんの道具のカンナは、木をきれいに削る。ノミは穴を掘る。
鍼の道具とは、いろいろな物としての鍼ではなく、いろいろな生体反応を作れる方法である。
それぞれの役割を果たせる道具があれば、当然、立派に治療ができることになる。
① 組織損傷による生体防御機転の刺激(メカニズム-1)
② 筋への刺鍼により、筋の過緊張を緩和し、血液循環を良くする刺鍼局所作用(メカニズム-2)
③ 筋刺激による交感神経を遠心路とする反射機転(メカニズム-3)
④ 皮膚・皮下組織刺激による副交感神経機能を主体的に高め、自然治癒力を高める機転(メカニズム-4)
⑤ 坐位時の低周波鍼通電療法による全身的交感神経機能亢進作用(メカニズム-5)
⑥ 臥位時の低周波鍼通電療法による全身的交感神経機能の緊張を解く作用(メカニズム-6)
鍼治療で私達は、どれだけ道具を持っているのか。
①、②は、従来からのものである。
①は、刺鍼による組織損傷した物質が、異物として作用し自然免疫機構を刺激するというものである。
②は、局所治療の中心的役割を演じている。
③、④は、浅刺・呼気時・坐位の刺鍼法の研究で明らかになったものである。
③は、筋刺激が、交感神経β受容体系の抑制反応をつくるというルートであり、体性−内臓反射の基本的ルートとなるものと考える。
④は、浅刺・呼気時・坐位の刺鍼法である。
ここでは、以下、⑤、⑥について述べる。
上記の⑤、⑥についての検討である。
臨床の中で低周波鍼通電療法が、閾値下刺激として作用しているのではないかという示唆を受けた。
以下そのことについて述べる。
ここで低周波鍼通電療法というのは、昭和46年(1971年)のニューヨークタイムス社のレストン記者により、全世界に、中国での針による麻酔の報道がなされた時の低周波を用いた方法のことである。
この針による麻酔に用いられていたのが、手による手技も行われていたが、多くは、低周波治療器が用いられていた。
手、足の末端部からの刺激は、1Hz前後のパルス、手術局所近くには数百Hzのパルス刺激が行われていた。この低周波治療器を用いた針の方法が、針麻酔についての研究と共に、鎮痛療法として臨床応用されるようになった。
それが低周波鍼通電療法である。
それ以前から、低周波治療器は物理療法の一つとして存在していたが、1Hz前後のパルス刺激を用いるものは、中国の針麻酔にプライオリティがある。
1 気管支喘息と坐位時、低周波鍼通電療法
1−1 治効メカニズムへの考察 針麻酔は、痛み研究の発端ともなり、そのメカニズムについて脳内モルヒネ様物質など多くの研究がなされた。しかし、未だ結論は得られていない。
私は気管支喘息の治療の中から貴重な経験を得た。
20年程前に、呼吸のリズムにおいて吸気時、呼気時に副交感神経機能が亢進、抑制を繰り返すことを知り、この変化を活用すれば気管支喘息治療ができると考え、呼気時のみ、吸気時のみにパルスを出せる低周波治療器を作り治療に応用した経験がある。しかし、この時はどうしても臨床的に納得できる成果を得られなかった。
今回は、自律神経研究の進展によって体位の違いにおける交感神経機能の変化の大きいことを知り、また、気管支喘息の起坐呼吸にもヒントを得て、患者の体位を坐位(長坐位)で治療を行えばうまくゆくのではないかと考えた。
実は、気管支喘息の患者に、合谷−孔最で、1Hzの低周波鍼通電療法を行うと発作を誘発することがあった。気管支喘息の患者が発作を起こしやすい時には、低周波鍼通電療法はできないことを経験していた。
そこで、もし、坐位での治療が本当に意味があるなら、臥位で行うと発作を誘発する合谷−孔最の低周波鍼通電療法を行ってみようと考えた。そして、実際に試みた。
その結果、気管支喘息発作を起こしている患者の喘鳴を治療中に改善することができることが解った。次々と試みうまくゆくことが解った。外来に通院してこれる程度の発作は、20分、あるいは、40分、60分の低周波鍼通電療法で、発作は改善できる。
上記の治療方法は、臥位で行うと気管支喘息患者の発作を誘発する。
1−1−1 治療の体位が坐位、坐位は坐位でも長坐位 通常のイス坐位で低周波鍼通電療法を行うと治療中に患者は脳貧血を起こすことが多い。したがって治療にはならない。しかし、図31のように長坐位で行うと、脳貧血は起こさない。しかし、用心して私は、殿様療法と呼んでいるが、図31のように肘掛けを当てている。長坐位で行うことが大きな意味を持っている。
1−1−2 坐位、立位が交感神経機能を高める 病気の症状とは、病的状態に陥った組織、器官の異常な機能状態の徴といえる。したがって、症状は、機能異常を起こしている組織、器官を示すとともに機能異常の状態も教えてくれる。病気を診断する上で極めて重要な意味を持つ。このことはだれでも理解している。しかし、症状には、もう一つ、治療を示唆するものでもあるという意味がある。
気管支喘息について学んだのは、もう30年以上も前である。けれども最近まで起坐呼吸が喘息の治療に重要な示唆を与えていることに気が付かなかった。 体位の違いは刺鍼反応に大きな影響を与えるので、当然、治療効果に関わるものであることが理解できる。 喘息発作時に坐位になると咳の発作が楽になるというのは、交感神経機能の高まりが関わっているものであろう。咳が楽になって横になるとまた交感神経緊張が低下するので咳が出始めるという繰り返しをする。
1−1−3 1Hzパルス刺激の反応1Hz前後の低周波治療は筋に収縮を作ることを原則としている。通電せずに雀啄刺激でもパルス通電時と同様に痛覚閾値上昇という反応を作れることは、中国でも伝えられ、私達も昭和40年代に基礎的実験により確かめた。電気にも、雀啄にも共通するのは筋刺激をしていることである。
1−1−4 骨格筋の収縮と自律神経反応 骨格筋が強縮すると副交感神経機能を抑制し、交感神経機能を高める。つまり、筋が収縮すると副交感神経機能を抑制し、交感神経機能を高めるという自律神経反応を起こす。ところが、筋の単収縮では、ポリグラフで観察しながら低周波鍼通電をしても上記の自律神経反応を起こさない。つまり、自律神経反射に対して、刺激はあるけれども反応は作れない閾値下刺激として作用していると考えられる。筋収縮には有効刺激であるが、自律神経反射には閾値下刺激ということである。
1−1−5 針麻酔の基礎的研究 図32-1、32-2は、皮膚温、舌下温を指標として針麻酔時の生体反応を観察した研究である。刺激部位は、左右の合谷、左右の三陰交をつなぎ、1Hzで鍼通電刺激をしている。図32-2に見られるように舌下温は、通電開始とともに低下し始め、その時、腹部皮膚温や手足の皮膚温が上昇する。しかし、通電中にも関わらず、通電50分後から突然、舌下温が上昇し始め同時に上昇していた腹部や手足の皮膚温が低下し始めた。低周波鍼通電刺激により体温調節機能に変化が起きる。しかし、通電途中であるのに50から70分の時点で元に戻る反応が起きる。自律機能に変化を与える。しかし、特定の一定方向への反応をつくるものではないことが解った。臥位という体位が、反応の方向を決めている。しかし、その反応もどこまでも行くものではなく、一定のところで戻る、おそらく生理的な範囲の中で変化しているものと考えられる。鍼による心拍数の減少も生理的範囲の中での変化である。
1−1−6 考察 筋に単収縮を作る低周波鍼通電療法は、副交感神経機能抑制、交感神経機能亢進という反応の閾値下刺激として働くことにより、自律神経機能の変動し易さを作っているものと考える。その結果、臥位で行うと気管支喘息の発作を誘発し、坐位で行うと発作を止めることができるという全く反対の反応を同じ刺激が起こしている。 坐位と臥位の生体の状態の違いが、生体の状態をどちらの方向へ向けようとしているのかの反応の方向性を決定しているものと考えられる。20年前には、喘息治療を呼吸のリズムを手がかりに副交感神経機能を中心に試みたが失敗した。気管支喘息については、体位の要素による交感神経機能が主体的に機能しているようである。 低周波鍼通電療法は、自律神経反射に対し閾値下刺激として作用し、その変動し易さを作り、特定の方向性を持った反応を作るものではないと考えられる。
1 副交感神経機能を高める(治効メカニズム−4)・浅刺、呼気時、坐位の刺鍼法交感神経機能の高まりも連れて来る。
補術としての基本と考える。
副交感神経系を主体として機能を高めたいときに適応する。 現代人にはほとんどの状態に用いられ有効である。生体の自律神経活動を高めることにより歪みを改善しようとするので、自律神経が関与する解けにくい歪みが対象となる。
自然治癒力を高めていることと考えている。
2 交感神経機能を高める(治効メカニズム−5)・坐位時での低周波鍼通電療法 長坐位で行う。合谷ー孔最、1Hz、20分間行う。状態が重いほど時間をかける。特定の方向性のある反応をつくらないので長時間行っても治療のし過ぎは起きない。
気管支喘息の喘息症状時とうに適応する。偏頭痛にも用いられる。 交感神経系を主体として機能を高めたいときに適応する。
3 交感神経機能の過緊張を改善する(治効メカニズム−6)・臥位時での低周波鍼通電療法 現在、広く用いられている中国の鍼麻酔方式の臨床応用である。
特徴は、生体の呼気時、吸気時共に刺激されるので、生体内で反応が揺さぶられるような状態となる。多くは呼気時の時間が少し長いためか最終的には呼気時反応が残る。揺さぶり療法として、結果的に補術となる。揺さぶるというところから頑固な、慢性的な状態に適応する。運動器の痛みや、自律神経症状に広く用いられている。
刺鍼の部位として、全身反応を期待するのは基本的には、合谷ー孔最が優れている。しかし、それぞれの症状により種々のつぼが用いられているが、肘、膝から末梢部が効果的である。 全身反応を期待してのものなので1から数ヘルツで用いる。
上記の三つを道具として用いると自律神経系を窓口とする治療は、理論的に組み立てられる。
副交感神経機能を抑制する刺鍼法がないが、理論的には構成できる、しかし、臨床的にはほとんど必要ないと考える。弊害の方が大きい可能性が高いのであえて示さない。
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