自然鍼灸学・自律神経臨床研究所は、自然鍼灸学・自律神経機能につ
いての研究・臨床活動を日本の社会・世界に向けて推進する目的で活
動しております。

自然鍼灸学・自律神経臨床研究所
所長:西條一止
住所:〒305-0024
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「睡眠」
 あらゆる哺乳類は眠ります。多くの人々には「睡眠」は、心地よい響きを持ったことばです。気持ちよく元気な目覚めを思い心和むのです。しかし、一部の闘病しておられる人々で睡眠が必ずしも心地よく感じられない方もおられます。睡眠中に心身を健康に保つ仕組みが活動しています。眠りを心地よく受け止められる状態をつくることがまず第1のことかもしれません。

1 寝床 
 寝床、あまりスマートな響きではないように思います。生活のなかにおける睡眠と密接な関わりを表現するような気がするので寝床という表現を用います。
 寝床は心身共に一番ゆったりできるところです。生き物は生命の安全を守ることが可能なところに巣を作り、寝床を作ってきました。寝床は心身をゆったりさせることができるところでなければならないのです。寝床の条件です。ホテルや旅館に泊まると良く休めないという人がいます。また、どこででも休めるという人もおられます。
 初めての慣れないところに行っても平気な人、緊張する人の違いでしょうか。赤ちゃん、幼児には寝付くときの儀式(人形とかタオルとか)があるといいます。心身をゆったりできる条件があり、人によってその条件の内容、レベルが異なるのだと思います。
 ホテル、旅館に泊まること平気という人も、本当に平気なのでしょうか。私は平気な方なのですが、今、この原稿を書きながら、ホテルに泊まっているときは何かの用があるから泊まっているわけですが、私は、目が覚めたときにはその日の仕事用モードになっているように思います。つまりハイテンションになっているのです。そのことが、良く休めなかったという思いを持たせないのかもしれません。
 家で寝床に入ったときに、目をつむっても寝室にある調度品等が意識でき、ゆったりした気持ちになれます。寝床環境の条件について後で整理します。

2 脳
 成人の脳は重量が1.4kgと体重の2〜3%である。心拍質量の約15%程度を受け取り、全身の酸素消費量の20%近くを消費する。脳は大量のエネルギーを必要とする。脳組織はエネルギーの基質の貯蔵量は極めて少ないので、エネルギーを主として血液中のブドウ糖からとる必要がある。したがって、他の臓器と比較し、脳は虚血に対し非常に弱く、ヒトでは脳血流が完全に遮断されると、10秒いないに意識が消失し、8〜12分間で非可逆的な脳の障害が起こる。

3 睡眠の働き
 睡眠の働きは、まず積極的に脳を休めることといわれます。ヒトのように脳が高度に発達した種では、単に身体の活動を停止するだけではなく、脳が活動し続けてオーバーヒートしないように脳を休ませるという。脳は身体全体のエネルギーの20%を消費するといわれるが、深い睡眠の時には40%に低下するという。睡眠をとらずにいると集中力、記憶力、思考力が低下する。
 睡眠は無駄なエネルギーを使わないためともいわれる。
 深い睡眠中には、成長ホルモンが分泌されて、成長期の子供では身体の成長に、成人では組織の損傷を回復することで疲労回復に役立っている。
 睡眠と免疫機能にも密接な関連があり、相互に支援する。
 睡眠は単に休息ではなく健康を維持するに大切な役割を担っている。

4 睡眠の種類:レム睡眠とノンレム睡眠
 睡眠は90分間のサイクルを繰り返す。ノンレム睡眠が最初に現れ、レム睡眠が続き一つのサイクルを作る。睡眠周期という。

4-1 REM睡眠
  浅い眠り、夢を見る。睡眠中枢の働きで全身の筋肉の緊張が緩む。力が入らない。金縛り。脳は活発に働き、交感神経機能は多少緊張している。脳からの運動指令を遮断し、筋の緊張を積極的に抑制し運動器を休める。
 成人では睡眠の20〜25%を占める。

4-2 Non-REM睡眠
  深い眠り。
 脳の休息の度合いにより4段階に分ける。これが眠りの深さを現す。
  段階1 座った姿勢が保て、電車に乗っていて駅を乗り越さない。
 段階2 首を保持できなくなり隣の乗客に首をもたせかける。しばしば駅を乗り越す。 段階3,4 熟睡、脳は所見から徐波睡眠といわれる。多少の物音では目を覚まさず瞳孔が散大しているため無理に起こされるとまぶしい。
 骨格筋の緊張は、覚醒時よりも低下するが、REM睡眠時のように完全には弛緩しない。
  意義は、脳を休ませる。高等な動物ほど深いNon-REM睡眠がよく発達している。

5 睡眠と脳波

5-1  脳波
  α波:8〜13Hz、平均10Hz   
 β波:14〜30Hz、平均20Hz
 θ波:4〜7Hz、平均6Hz   
 δ波:0.3〜3.5Hz、平均3Hz

5-2 睡眠段階と脳波
覚醒
 8〜13Hzのα波 13〜35Hzの低振幅で不規則なβ波
段階1 
 α波が判定区間の50%以下になってから2〜7Hz低振幅徐波が連続するまで。
段階2
 12〜14Hzの睡眠紡錘波とK複合という2相性または3相性の高振幅徐波。
段階3と4
 0.5〜2Hzの大振幅δ(デルタ)波。
 δ波が20〜50%が段階3
  50%以上が段階4。
REM睡眠
 段階1の脳波パターンで、レムを伴い筋電位が消失した状態。

6 睡眠時間(質と量) 
 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分と判断して良い。
 8時間にこだわらない。歳をとると短くなる。

6-1 米国の大規模調査
 7時間睡眠の人が、8時間睡眠の人より寿命が長いという結果があるが、8時間睡眠が寿命を短くするというわけではなく、調査には病気の人も含まれていることが8時間睡眠者の寿命を短くしたと考える方が正しいとらえ方と考えられる。

6-2  日本人成人では、5時間以上8時間未満が、86.3%。平均6.6時間といわれる。
  睡眠が充足している人:6−7時間睡眠の人が40%。7−8時間が31.6%。
  睡眠が充足していない人:5−6時間が51.1%。6−7時間の27.9%。
  実際に眠っている時間をポリグラフで調査すると、成人以降50歳代は、6.5−7.5時間。 60歳代以降短くなり70歳代では、平均6時間弱。


7 良い睡眠のために:刺激物を避け、寝る前には自分なりのリラックス法

7-1 カフェイン
  カフェインの作用:覚醒作用、利尿作用。入眠を妨げ、中途覚醒を増加させる。
        作用時間:摂取後30−40分後に発現。4−5時間持続する。
  カフェイン含有食品:日本茶、コーヒー、紅茶、ココア、コーラ等のソフトドリンク、健康ドリンク剤、チョコレート等。
  カフェインへの注意:寝付きが良くない場合は、就床前4時間以降のカフェイン摂取を避ける。カフェインの利尿作用は、尿意で中途覚醒の原因となる。

7-2 タバコ
 タバコ:作用:ニコチンは交感神経系の働きを活発にし睡眠を障害する。
      作用時間:吸入直後から数時間持続する。
  リラックスするためタバコを吸う人が多いが、就床前1時間以降の喫煙は避ける。

7-3  寝る前には自分なりのリラックス法
  軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニングなどを行う。

8 上手な休み方
 眠くなってから床につく、就床時刻にこだわりすぎない。
 眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝付きを悪くする。
  習慣的入眠時刻の2−4時間前の時間帯は、一日の中で最も寝付きにくい。
 不眠を自覚すると床にいる時間を長くして不眠をカバーしようと早めに床につくことが多いが逆効果となる。
  眠れないときには、いったん床を出て、自分なりのリラックス法を実践し、眠気を覚えてから再度入床する。
 同じ時刻に毎日起床
  早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる。早寝から始めるのでなく、早起きから初めて生活リズムをつくる。
  日曜に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなる。
  起床後、太陽の光を浴び、体内時計がリセットされるとそこから約15−16時間後に眠気が出現する。光によるリセットが行われないとその夜に寝付くことのできる時刻が約1時間遅れる。

9 睡眠と太陽光
  目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン。夜は明るすぎない照明を。
  起床後2時間以上、暗い室内にいると体内時計のリセットが行われない。
  通常の室内の明るさは、太陽光の10〜20分の1。曇りの日でも室内の5−10倍の明るさがある。
  体内時計のリズムをきちんとリセットするには、起床後なるべく早く太陽光を浴びる。
  太陽光に暴露される時間が少ないと、実質的な日昼時間が短くなり、身体が冬のモードになるため睡眠が浅くかつ延長する。
 過度に明るい夜間の室内照明は、体内時計のリズムを遅らせ、自然な入眠時刻が遅れる。

10 昼寝
 昼寝をするなら、15時前の20−30分間。
  昼食後から15時までの30分未満の規則正しい昼寝は、夜間の睡眠に悪い影響を与えない。日中の眠気を解消し、その後の時間をすっきりと過ごせる。
  30分以上の昼寝は、身体と脳を寝る体制にしてしまうのでマイナス。
  夕食後に居眠りをするとその後目がさえてしまう。

11 睡眠のトラブル 
 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに。
 寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減る。
 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意。背景に睡眠の病気。
 十分に眠っても日中の眠気が強いときは専門医に。
 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと。
 睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる。
 連用すると容易に飲用量が増加し、アルコール過剰摂取の弊害を招く。
 睡眠薬は、医師の指示で正しく使えば安全。一定時刻に服用し就床。アルコールとの併用をしない。

12 体内時計機構
 1日の睡眠リズムは、各自の体内にある体内時計によって制御されている。
 体内時計は、25時間のリズムを持っている。地球の1日の24時間のリズムとはずれがあり、いつもこれを身体は修正している。修正の同調因子には、食事、運動、仕事などがあるが、もっとも強い同調因子は、太陽光である。
 生体の内在リズムが1時間長いため、延ばす方向には変化し易く、縮める方向には変化しにくい。時差ボケなどでリズムがずれた場合は、起きている時間を延ばしながら調整する。 
 最近の研究で人の体内時計も24時間という見方がある。

13 子供の睡眠
 生まれたばかりの時は、体内時計の働きが不十分なため、1日のリズムができず、3時間寝て授乳し、また、3時間寝るを繰り返す。その後次第に体内時計が働きだし、25時間のリズムを作るが、地球の自転による24時間との調整が必要になる。しかし、生後3,4ヶ月までは、この調整機能が不十分なため、調整できず、毎日1時間ずつ遅くずれてしまうことがある。3,4ヶ月過ぎると、朝の光、食事時間、社会環境などを手がかりに、自分の体内時計を地球時間にあわせることができるようになる。朝の光、食事時間など、体内時計リセットの手がかりをきちんと与えることの大切さがわかる。

13-1 夜泣き
 養育者の60%が悩んでいる。
  生後4ヶ月までは、体内時計、調整作用が十分でなく、夜泣きになることがある。体内時計が外界の時刻を知る手がかりがしっかり子供の脳に伝わるよう、環境を整える。
  夜、眠り、昼に活動するリズムができても、毎晩、同じ時刻に夜泣きをする場合がある。小児では成人よりも短時間のサイクルで睡眠が浅くなり、このときに体動を伴う。これらの動きに養育者が過剰に反応してしまい、抱き上げや授乳を行うと、夜の覚醒が習慣として固定してしまう。割り切って放っておくことも場合によっては必要。

13-2  遅寝
  乳幼児の睡眠量、昼間の活動量、昼夜の受光量のメリハリが低下する。睡眠時間が減ると感情の制御が不安定になる。望ましいことではない。

13-3  昼寝
  昼寝をしない:生後8ヶ月頃、午前午後各一回の昼寝。
 1歳2ヶ月以降は、午後1回の昼寝、となる場合が多い。
 3歳児の10から15%の子供は、昼寝をしない。
 昼寝は必ずしなければならないものではない。元気であれば問題はない。
 午後3時半までに昼寝を終える。それ以降まで寝ていると夜の睡眠に影響する。

14 高齢者の睡眠

14-1 健常高齢者で見られる睡眠と生体リズムの変化
 高齢者では睡眠が浅くなり中断しやすくなる。早寝早起きになる。こうした変化は、睡眠機構、生体リズム機構の加齢の結果と考えられている。

14-2  睡眠の質と量(アンケート調査)
 1日に床の上で過ごす時間。
 10歳代前半は、男女とも8時間以上。加齢と共に短縮し、40歳代で最短となり男性7.3時間、女性7.0時間。この後、延長して70歳以上になると8.5時間前後であった。

14-3 終夜睡眠ポリグラフ検査
 高齢者では、消灯してから入眠するまでの時間(入眠潜時)が若年者に比べ長くなる(入眠障害)。
 若年者、中年者に比べ入眠後の覚醒(中途覚醒)が多い。
 入眠してから朝覚醒するまでの間に実際に睡眠していた割合(睡眠効率)は、
 若年者:97%。高齢者:77%。
 浅いノンレム睡眠(段階1,2)が増加し、深いノンレム睡眠(段階3,4)が減少した。レム睡眠も減少した。
 高齢者では、身体を使う時間の減少、基礎代謝量も低下することが、身体が必要とする睡眠量が減少する。また、身体の成長は終了しており、組織の損傷修復の速度も低下するため、成長ホルモンを分泌するノンレム睡眠の必要性も低くなる。
 身体活動の低下が睡眠の量・質の必要性を低下させているとも考えられる。
 体内時計自体のリズム強度が減少していると推測されている。時差ぼけからの回復に時間がかかることなどから体内時計の同調機能が現弱していると考えられている。

14-4  高齢者で見られる睡眠障害
 高齢者では睡眠障害の頻度が高い。日本の一般成人を対象とした調査で不眠の訴えは、
 20から60歳:約19%。
 60歳以上:30%。
 入眠障害は年齢の差がなかったが、中途覚醒、早朝覚醒が60歳以上で増加する。
 神経症性不眠:なにかのきっかけで不眠が続くと一種の不眠恐怖症に陥り、かえって不眠が増強、慢性化してしまう。
           中途覚醒の出現率   徐波睡眠(3+4)の出現率
 10代          1.4%                 39.6%
  30代          3.4                  21.4
 50代          10.3                  17.4
 70代         22.0                  1.8

14-5 60歳以上で中途覚醒、早朝覚醒が多くなるが、上の表のように70歳代では深い睡眠の徐波睡眠がわずか1.8%に減少している。深い眠りがほとんどない状態である。
 このことは、睡眠の環境がお年寄りにとってはとても大事なこととなる。

15 良い睡眠への対策

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