感動した1節です。
脳には500億から1000億のニューロンがある。
100兆のシナプスを介して信号のやりとりをしている。

そんな器官を30億文字のDNA指示書に綴られた2万個のヒト遺伝子がつくっている。
実に驚くべきことである。
脳は、この2万個の遺伝子のほとんどを発現させている。
生涯「オフ」のままという遺伝子はほとんどない。
脳の各部位で遺伝子がデリケートに発現することは、最近になってやっと知られるようになったばかりだ。
脳の構造の信じがたい複雑さは、遺伝子がしかるべき時にオンになり、オフになるという優雅なダンスのようなタイミングのリズムに乗って組み立てられている。

この複雑さをさらに複雑にしているのは、脳の遺伝子の多くが、一つの蛋白質のみをつくっているのではなく、多数の蛋白質をつくり出していることだ(選択的スプライシング)。
遺伝子一つで3万8000種類の蛋白質をつくっているものまである。

脳の発達はゲノムだけで決まるものではない。
身体のあらゆる器官のうち、環境との相互作用が最も大きく影響するのは脳だ。
乳幼児期に外からの刺激を受けることは正常な脳の発達には不可欠で、それが神経結合を促したり壊したりする。
成人してからも、新しいことを学ぶとニューロン結合に変化が起こる。
これらの結合は病気や薬で途絶させられることもある。

脳のとてつもなく複雑な構造と、その背景にある個人の遺伝子バリエーションの交錯、それを一掃するほどの環境の影響を考えると二人の人間の脳がー一卵性双生児どうしでさえー違っているのはなんの不思議もない。 

QRコード