これは3月16日に行われた筑波技術大学の学位記授与式での祝辞です。
平成23年度学位記授与式
祝辞
「本気で仕事をする」
本日は、学位記授与おめでとうございます。
ご家族の皆様、大学教・職員の皆様おめでとうございます。
本学の創設を切望され、全国のあちこちで本学の教育、研究をご支援いただいている多くの方々も大変お喜びのことと思います。
さて、筑波技術大学の学位という肩書きを背に社会に巣立とうとする諸君に、はなむけの一言を送りたいと思います。
「本気で仕事をする」、皆、本気で仕事をしているような気持ちでいます。
しかし、本当に本気で仕事をしているのでしょうか。
失礼ですが諸君は、本気で勉強してきましたでしょうか。
胸に手を当ててよく考えてみましょう。
これからが、人生における勝負のスタートです。
そこそこの努力では通用しません。
人々の心を打ちません。
司馬遼太郎先生の「坂の上の雲」がNHKテレビで3年がかりで放送されました。
私は教員になって以来、長編小説を読まないようにしてきました。
一定の時間、頭を占領されたくない。という思いからでした。
短い時間の頭の空白は気分転換によいのですが、長編の小説となると数日は占拠されます。
それは教育に、研究に支障となり困るという思いでした。
「坂の上の雲」最後から2回目の放送の時でした。戦艦三笠で船員が入浴しているシーンがありました。ナレーションで身体を清潔にし、消毒した戦闘着を着て海戦に臨むとあり、それは兵員の戦闘による外傷の化膿を予防しようという策であるとのことでした。日露戦争での日本海軍は単に戦闘力を高めるだけに力を注いでいたのではなく、そこまで配慮していたのかと感心しました。まことに「本気の仕事」です。そこで司馬遼太郎さんの原作ではどのように書いてあるのであろうかと興味がわき、早速本屋さんで求めました。文春文庫では、8巻(最終刊)にその場面がありました。原作では衣服だけではなく、艦内をくまなく消毒するとありました。戦艦が砲弾を受け破壊されるとその破片での外傷が多いので艦内も消毒とのことでした。そこまで準備を整えた海軍をつくっていました。
「まことに小さな国が、開花期をむかえようとしている。」という明治時代人は大変な力を振り絞って國造りをしていたという思いが強烈です。大変な本気です。
「坂の上の雲は」明治20年代、30年代ですが、明治27年日清戦争、明治37年日露戦争程度の知識しかない私には、明治からの日本の歴史を学ぶテキストです。
これより先の江戸、幕末は、「胡蝶の夢」、「龍馬がゆく」などで学べますが、幕末から明治、大正における司馬文学が示してくれる日本人の生き方、考え方、それが昭和に平成にどのように関わっているかという筋道を関西大学名誉教授矢沢永一先生の「坂の上の雲」を読むという解説書がよく示してくれています。
「本気で・・・」ということは、見たままに、聞いたままに、いつものように、ではなく、見たものを、心の目で見直す。
聞いたものを、心の耳で聞き直す。ということです。
心の目で、心の耳でとは、自分の頭で考えるということです。
一つ一つの物事が本当の狙いは、目的はどこにあるのかを考えて仕事をするということです。
今では、我が国は世界の大国です。
しかし、100年少し前には東の辺境にある「まことに小さな国」でした。
明治時代人の本気の努力が今日の大国への礎を創りました。
今、21世紀も10年を経て、世界も、我が国も大きな変革期を迎えようとしています。
時代は変わろうとしています。
何が本質か。
将来を展望した「本気の選択」を求められます。
明治時代人の「本気の仕事」に学び、心を鍛えましょう。
諸君の若い力に期待します。
諸君の未来が21世紀の行く末をしっかり支えられることを祈念します。
健康で生き生きと社会に巣立ってください。
平成24年3月16日
平成医療学園 宝塚医療大学 副学長
西條一止