私は、30代、40代のおよそ20年間、筑波大学理療科教員養成施設で働きました。
30代後半から40代の間、2年に1回ずつ学生を引率して富士登山を7回行いました。
体育の正課として位置づけましたので、2年間の在学期間中に学生は1度富士登山をすることになります。
身体的な理由から登山ができない場合は富士山5合目、中道巡りをします。
夏休みの始めに実施します。そのために4月から昼休みにトレーニングを始め体力を鍛えました。
登山レースではなく、全員が頂上に到達できることを目標にしました。
学生40名の2/3は全盲の学生です。しかし、頭もよいし感覚も鋭い人たちです。研究生と専任教員合わせて60名弱のパーティです。
どのような計画をしたら視覚障害の多い学生を無事に登山させられるかが大きな問題でした。そこで、5名ひと組の班にしました。
5名に一本のロープを持たせ、先頭から5番目までの順序を決めます。
先頭と最後の5番目は視力のある学生をおきました。このロープを放してはいけないという決まりにしました。また、グループを追い越してはいけない。
靴のひもが緩んだりして歩行を停止しなければならないときには、大声で停止の合図をグループから発し、リーダーはパーティ全体を停止させます。
決して遅れるグループをつくらないのです。そのために力が弱ってきたグループを先頭に持ってきます。
一番力の弱いグループのペースで進めます。
常にパーティを一つにしていたわけです。
日程は、1日目に5合目まで観光バスで行き、そこで昼食をし準備して登山が始まります。
8合目の山小屋まで行き夕刻につきます。ここまでは大きな問題はありません。
翌朝、3時頃に起床し準備をして真っ暗な中を出発します。ご来光を拝もうということです。
8合目を超えると頭痛などの高山病の症状が起き始めます。どうしても動けなくなった学生は、その場において行きます。しかし精神的にも不安定ですから一人にしておいては行けません。
教員を一人つけておいて行き、帰りは同じ道を下ってきますから一緒に連れて帰るというわけです。
問題は付き添わせる教員を決めることです。あなたがついてくださいと一気に決めます。
相談などしたらだめなのです。みんな頂上に行きたいのです。
偏頭痛のある人、肥満の人は高山病要注意です。
雨の時などはパーティの90%が高山病になりました。
さすが富士山です、一歩間違うと奈落の底に滑り落ちるようなところがありますので、全員の緊張感が非常に高いのです。
先頭から指示を出すとよく徹底します。
全体指導のよい場面です。
頂上に着くのが午前8時頃です。
休息して下山しますが、午後1時頃には5合目に帰り着きます。
帰りのバスは、まず睡眠です。
1時間ほどすると皆、起きますから感想を述べる会をします。
本気で頑張らなければならないという経験は多くのものを学ばせてくれます。
富士登山したという経験が、教員になり赴任した学校で夏休み等に先生方が山に行くというような話になったときに私も参加しますと積極的に参加した教え子達が多くいます。
私にとっても貴重な体験でした。
5,6名の専任教員集団というのはリーダーがその気になって先頭に立てば実施できます。
10名を超すと色々な意見が出てきて特に視覚に障害があるということでの危険性を言い始めるととても難しいことになります。
十分な準備さえし、慎重に勇敢に臨めば大丈夫です。