4月22日(日曜日)の朝日新聞朝刊のヒト欄です。すばらしい生き様です
極薄の「魔法のフライパン」で世界デビューする鋳造会社長
錦見泰郎(にしきみやすお)
厚さ4〜5mmが常識とされる鋳物で、1.5mmの「魔法フライのパン」を開発した。国内で定価1万円前後で計10万個を売った人気商品は今年、フランス調理器具メーカー「クリステル」との共同ブランド商品として世界デビューする。
三重県木曽崎町にある鋳造会社の2代目。従業員7名で、工業製品の部品の下請けだった。バブル崩壊後、メーカーから「代わりはいくらでもいる」と切り捨てられた
そんなとき、新聞の言葉が目にとまった。「3分の1の価格競争で戦うか、3倍困難な技術で戦うか」。鋳物フライパンの薄さを極めると決めた。32歳だった。
「1階部分で飯を食って、2階で夢を」。部品の下請けで稼ぎながら、合間に図面を引き、鉄を溶かし続けた。試作を繰り返して9年。鉄や炭素の配合ミスによる偶然で「1.5mm」が生まれた。
試作品を使った有名レストランのシェフは「鉄板、フッ素樹脂に続く第3のフライパン革命」と絶賛した。熱伝導に優れ、焼きムラができない。注文が相次ぎ、数年前まで納品に2,3年かかった。
円高で企業の海外移転が進む今、中小企業が生き残るには「3倍の強みが必要」だという。「2倍では追いつかれてしまうから」。努力を続ける原動力は「好き」という気持ちだ。「僕が好きなのは、『すごい』といわれること」。