「あなたの腰痛が
治りにくい
本当の理由」
著者:福島県立医科大学医学部整形外科学講座
教授 紺野慎一先生
すばる舎
今年、筑波技術大学は、創立25周年を迎えます。鍼灸学科の臨床実習の場として付属診療所、施術所をつくりました。
鍼灸の臨床では腰痛が最も多い症例です。その治療効果を客観的に評価できる装置としてレントゲンは骨を写しますが、MRI(核磁気共鳴診断装置)は神経などの柔らかい組織を撮してくれます。
そこで椎間板ヘルニアなどを評価できるように診療所にはMRIを設置したいと強く考えました。
当時、MRIは強う磁場を作る、重い装置であるというところから、MRIとそのための建物とを同時に予算化する仕組みになっていました。
大学の建物の計画の時には、MRIなどの設備については予算化ができていないのです。
当時の文部省の建築の担当者は、予算が決まっていないMRI室を計画できないといいます。
いろいろ相談するうちに「倉庫」という名目でMRI室を造りましょうという提案をしてくれました。
当時は短期大学であった付属診療所にMRIが設備できたのです。
しかし、時代は進歩します。腰痛を発症したことのない健康な成人を対象にMRI検査をしてみると76%の人に椎間板ヘルニアを観察したといわれます。
MRIで観察できる椎間板ヘルニアは腰痛の原因では必ずしもないということです。
椎間板ヘルニアが原因の腰痛は数%であろうといわれます。
腰痛の85%は、重い病気ではなく、原因が特定できない「非特異的腰痛」であるといわれます。
特に腰痛の多くは、患者さんの心理・社会的な問題が原因となっている場合が多いと本書は述べています。
福島県立医大の整形外科では、精神科との共同でこのような問題の総合的に対応をしておられます。
腰痛治療が変わります。
日本の医療界がこれをどのように受け止められるかにあります。
鍼灸は、身体の仕組みを総合的に動かして治療します。
痛みの鎮痛のみを目的とした治療では腰痛の治療として十分ではありません。
社会的存在としての人間の身体全体を治療の対象とするところに鍼灸の生きる道があります。