今年度の最後の一言です。筑波技術大学での「24年度学位記授与式」における私の祝辞です。
祝辞
「集団としての賢さを維持する一員として」
本日は、学位記授与おめでとうございます。
ご家族の皆様、大学教・職員の皆様おめでとうございます。
全国のあちこちで本学の教育、研究をご支援いただいている多くの方々も大変お喜びのことと思います。
さて、筑波技術大学の学位という肩書きを背に社会に巣立とうとする諸君に、はなむけの一言を送りたいと思います。
今年は、スポーツ界における体罰が大きな問題になりました。
体罰と暴力の違い。皆分かっているはずです。
怒る、誰にでも当然あることです。
怒らないことなど生きていたらあり得ないと思います。
しかし、体罰を必要と考えるときには、怒りの心を静め冷静に相手をよく見て行います。
事故など起こりません。
問題になっているのは、やはり怒りにまかせて、その勢いで手を上げているのだと思います。
日本女子柔道の代表団園田監督が、選手が集合時間に遅れてくるなどの時にとも語っています。
当然、何らかの指導が必要なときです。
桜宮高校でも副顧問の教員がいました。
しかし副顧問は顧問の教員に対して何も言えなかったといっています。
スポーツ競技は勝つか負けるかの戦いです。
オリンピックは参加することに意義があるといいます。
しかし実際は、金メダルなのです。
暴力が日常化しているのです。
今回キャプテンが自殺した桜宮高校で在校生、父兄の多くは顧問を支持しているような報道があります。
一流のスポーツマンになりたいと言う夢が、そのような素地をつくっているものと思います。
スポーツ界の体質を変えるのは容易なことではないと思います。
スポーツマンだけの問題ではなく、国民全体の問題なのです。
個人の力には当然限界があります。
集団としての賢さを求めて行くことが重要です。
個人として行き過ぎになりそうなところを集団として踏みとどまることができる賢さをつくることです。
集団としての賢さをつくるには、個人の責任を明らかにする体質です。
集団として問題点を指摘できることです。
これは勇気のいることです。
勇気をみんなが支持して育てることです。
事なかれ主義で見て見ぬふりをする。
学校におけるいじめも根は同じです。
問題ときちんと向き合おうとする気持ちを所属する集団の一人一人が持つことです。
見て見ぬふりは今の社会に蔓延しています。
一人一人が解決しなければという気持ちになって集団のメンバーにならなければ「賢い集団」になりません。
集団としての賢さを作れないことが問題を野放しにしているのです。
私たちは一人一人はそんなに強くないのです。
みんなの目がみんなの思いが一人一人を強くします。
なくさなければならないのは事なかれ主義です。
指導者の資質が最も重要です。
優秀な指導者を育てることこそが重要です。
しかし、立派な指導者と思われる人にも相性の良くないという関係が生じます。
そこを補える集団の賢さを集団を構成するメンバーがつくることです。
よその人ではありません。
スポーツの世界や厳しい競争が求められるところでは、闘争心と強烈な個性が存在します。
集団に所属する場を移動できる自由も必要です。
人間の社会は、あらゆるところが教育の、人を育てる場です。
家庭、学校、職場、集団には常に指導者がいます。
高杉 良さんは、「男の貌」(新潮新書)で、「リーダーの条件」として「リーダー本人がどうしても持っていなければならないその本質は、リーダーとして最終判断を下し、その責任を全うできるだけの「勁さ:つよさ」と、メンバーを包み込んで組織を束ねる「優しさ」につきます。」と書いておられます。
他の能力はブレーンとして求めれば良いとしています。
人々の生活で最も身近な指導者は親です。
子どもにとって両親です。
両親の教育レベルを上げること、教育の場において落ちこぼれなどの言葉が社会的に存在することが変ではないでしょうか。
全ての基はそこにあると思います。
個に対応できる、個がそれぞれ学べる教育の仕組みこそが根源ではないでしょうか。
「本気で生きる」ということは、見たままに、聞いたままに、いつものように、ではなく、見たものを、心の目で見直す。
聞いたものを、心の耳で聞き直す。ということです。
心の目で、心の耳でとは、自分の頭で考えるということです。
「集団としての賢さを維持する良き一員として」、一つ一つのもの事が本当の狙いは、目的はどこにあるのかを考えて、勇気ある行動ができることです。
今、世界も、我が国も大きな変革期を迎えようとしています。
時代は変わろうとしています。
何が本質か。
将来を展望した「本気の選択」を求められます。
小さな勇気ある行動が賢い集団を維持します。
心を鍛えましょう。
諸君の若い力に期待します。
諸君の未来が21世紀の行く末をしっかり支えられることを祈念します。
健康で生き生きと社会に巣立ってください。