現在、国際政治の世界でロバストネスという言葉が注目されているといわれます。
慶応大学医学部伊藤裕教授の著書「臓器の時間」祥伝社新書の1節を紹介します。
弱体化した日本を立て直そうと、アベノミクスに過度なまでの期待が寄せられています。
しかし、強い日本と言う時に、単なる「力:パワー」ではなく、「ロバストネス」を持つことが大切だと言われています。
ロバストネスには適当な日本語訳がないのですが,私(伊藤裕)は「靱:じん」という漢字がしっくりくると思っています。「強靱さ」です。
鉱物の性質を表す時、1〜10で表す「靭性」という概念があります。
最も硬い鉱石は、”永遠の輝き”ダイヤモンドです。鉱物の堅さを示す基準に、1〜10で表す「硬度」がありますが、ダイヤモンドは硬度10です。
つまり、ダイヤモンドはどんな物にぶつかっても傷つけられることはありません。
しかし、悲しいことに、どんな物も傷つけてしまいます。
いっぽう、ヒスイ(翡翠)という鉱石があります。
中国では、不老不死の石として、昔は金以上に珍重されていました。
宝石言葉は「長寿、健康、徳:とく」です。
中国では、ヒスイの「緑」が健康を意味します。
ヒスイの硬度は6.5でダイヤモンドにはとうてい敵いません。
しかし、ヒスイは、どんなに硬い物にぶつかっても「欠けること、割れること」がありません。
靭性とは、欠けにくさを表す単位です。
われわれの歯の表面を覆うエナメル質も、高い靱性を持っています。
ヒスイの靭性は8で、ダイヤモンドの7.5を上回ります。
ヒスイの内部は、針状の小さな結晶が複雑に絡み合っており、全ての鉱物の中で、最も割れにくいのです。
ダイヤモンドは最高の高度を持っていますが、ある特定の角度から衝撃を与えると、簡単に割れてしまいます。
ところが、ヒスイには衝撃に弱いという方向は存在しません。
ヒスイをダイヤモンドにぶつけると、ダイヤモンドの方が欠けてしまうのです。
ダイヤモンドの輝きだけでなく、ヒスイの強い靭性が強く生きるうえで大切です。
ロバストネスを持った臓器こそ、最強の臓器なのです。