大阪市立大学で行われます。抄録を記載します。
ーヒトの自律神経反応の身体の仕組みー 」
筑波技術大学 名誉教授
筑波技術短期大学(元)学長
医学博士 西條一止
1 ヒトの自律神経機能を自律神経遮断剤を用いて瞬時心拍数を指標として観察する。
1982年から数年間、鹿児島大学医学部田中信行教授のご指導ご協力で実施できた実験である。
2 ヒトの自律神経反応の特徴
2-1 交感神経と副交感神経の拮抗支配というバランス。両神経は同調が主体でありバランスしようとする。
2-2 交感神経α受容体系とβ受容体系は、同調あるいは分離して反応することがある。
2-3 自律神経反応の刺激入力方式の様々。鍼や手技、精神緊張などで交感神経α受容体系には同様な反応を起こす。
2-4 自律神経機能の機能分担:秒単位の早い刺激に対しては副交感神経が反応する。
2-5 体位変換と交感神経機能:姿勢の変化には交感神経が主体的に対応する。交感神経機能は、臥位時には機能を低下させ活動姿勢時には機能を高める。リアルタイムで変化する。副交感神経は、積極的には反応せず、健康な状態では活動姿勢時には交感神経に同調して働きを少し高める。あるいは変化しない。体調がよくないと抑制される。
2-6 呼吸運動と副交感神経機能:副交感神経機能は呼気時にその機能を高め、吸気時にその機能を抑制する。吸気時の抑制は呼吸筋の収縮が入力系で起きる反応である。呼気時にそれが解放され働きを高める。健康法の多くは呼吸を重視しているが呼吸筋の収縮による副交感神経機能抑制を解放して機能を高める仕組みを上手に動かそうとしている。
3 刺鍼時の自律神経反応
3-1 刺鍼時の瞬時心拍数の変化:副交感神経機能を高める。交感神経β受容体系機能を抑制する。
3-2 手技の瞬時心拍数の変化:刺鍼と同様である。
3-3 ストレス刺激時の瞬時心拍数の変化:副交感神経機能抑制。交感神経β受容体系機能過緊張。
3-4 刺鍼・手技の反応は、ストレス時反応と反応の方向が真反対である。
3-5 刺鍼・手技の反応は、ストレスによる自律神経反応のひずみを改善する方向である。
3-6 刺鍼・手技による自律神経反応はストレスによる反応がないときには起きない。この仕組みは進化により作られたと考える。
4 刺鍼時の副交感神経機能を高める、交感神経β受容体系機能を抑制する。この二つの反応を分離する研究(身体の治す力・調節する力を高める身体の仕組みの解明)
4-1 実験の方式
1 刺鍼の深さ 皮膚・皮下組織 骨格筋
2 呼吸の条件 呼気時 吸気時
3 姿勢の条件 イス坐位 仰臥位
この3つの条件を組み合わせ1個体に8通りの実験を行った。
4-2 その結果、
1 刺鍼の深さは、 皮膚・皮下組織
2 呼吸の条件は、 呼気時
3 姿勢の条件は、 イス坐位
の組み合わせの時にのみ副交感神経機能を持続的に高める反応を起こした。他の7通りでは意味のある反応が起きなかった。
4-3 この刺鍼時の自律神経反応
1 副交感神経機能高進
2 交感神経機能高進
が起きている。
4-4 考察
皮膚・皮下組織刺激、呼気時、坐位の条件が副交感神経機能高進、交感神経機能高進を起こす理由。
皮膚・皮下組織刺激は、副交感神経機能を高める反応を起こす刺激受容の場である。したがって、副交感神経機能を高める反応が起きる。
呼気時は、体内の副交感神経機能リズムが高まる方向を向いて変化している。
呼気時に皮膚・皮下組織刺激により起きる副交感神経機能の高まりが、呼気時の体内の副交感神経機能の高まりと同期して、呼気時への刺激を繰り返し行うことにより、体内の副交感神経機能が高まる。この実験を姿勢を活動的姿勢のイス坐位で行うと、
体内の副交感神経機能の高まりに交感神経機能が同調し機能を高める。副交感神経機能と交感神経機能は、互いに同調するというのが健康な状態での基本的な関係である。
このようにして副交感神経機能を高め交感神経機能が同調して高まり二つの自律神経機能が高い緊張レベルでバランスすることができる。
4-5 上記の反応は副交感神経機能が主体となり起きる反応である。それに対し、
5 交感神経機能が主体となる身体の治す力・調節する力を高める身体の仕組みの解明
足底への手拳による叩打刺激が、副交感神経機能を高め交感神経機能を高める反応を起こすことができる。実験的に確認した。進化の過程でできた身体の仕組みであると考えている。
6 ヒトの身体の治す力、調節する力を高める身体の仕組み
交感神経機能は人の活動状態を主体的に支えている。したがって、副交感神経機能に優先するところがある。交感神経機能が先に主体的に活動を高めると副交感神経機能を制御してしまうところがある。副交感神経機能に先によい位置を確保させ交感神経機能が動き始めることが重要である。5の身体の仕組みが例外としてある。
二つの自律神経が高い緊張レベルでバランスすることは、自律神経の目的から身体の機能の調節力が大きくなることであり、そこには身体のよい状態を保ついろいろな身体の仕組みが関わるものと考えられる。
本年6月1日のNHK総合テレビ「ガッテン」の番組で「癒やしホルモン:オキシトシンの驚きパワー」が痛みや認知症に効果的としていたが、行うことはボディータッチである。皮膚への軽い刺激を10分ほど行うというものであり、身体が持つ「恒常性保持機能」の一つの仕組みと考える。種々の仕組みが存在するものと考える。
私たちは人に自然音を10分ほど聞かせると副交感神経機能が高まり交感神経機能も高まり身体の治す力・調節する力が高まることを実験的に観察している。地球の自然環境は命を育む仕組みを多く進化させているようである。