「世界遺産 ラスコー展」の東京展が 国立科学博物館で
2016年11月1日(火)〜2017年2月19日(日)の間、開催されました。
宮城展は、2017年3月25日(土)〜5月28日(日)
福岡展は、2017年7月11日(火)〜9月3日(日)
と我が国では約1年間に渡り3会場で開催されます。
ラスコー洞窟は、フランス南西部の、ヴェゼール渓谷にあります。
2万年程前に現代人類の祖先といわれるクロマニョン人によって、大壁画群が描かれました。
ラスコー洞窟の壁画は1940年に村の少年たちにより偶然発見されます。
世紀の大発見のニュースで、多くの見学者のため壁画の損傷が進み、1963年、文化担当大臣アンドレ・マルローは、洞窟を非公開としました。壁画を見たいという人たちのために1983年、ラスコー洞窟のそばに、部分的な洞窟と壁画(ラスコー2)が再現されました。次いで、フランス政府公認のもとに最新技術と人材を動員して実物大壁画を1mm以下の誤差という素晴らしい再現壁画(ラスコー3)が制作され、2012年から国際的な巡回展が行われ、現在、我が国で公開されているものです。
ラスコー洞窟の壁画は、旧石器時代美術の最高傑作である、といわれます。
国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ長 海部陽介氏は、
「ラスコー洞窟が語る芸術のはじまり、芸術という不可思議なもの」
絵を描き、音楽を奏でるような芸術活動を行うのは、生物の中でも人間(ヒト)だけである。だから芸術の存在は、ヒトに固有の特徴の一つといえる。
一方で、芸術が存在する生物学的な理由は、よくわかっていない。生物にとっての根源的いとなみは「生きて成長して子孫を残す」ことであるが、そのためだけを考えるなら、芸術は重要でもなければ、必要でもないはずである。
このように存在意義があいまいな芸術だが、そんな生物学上の謎をよそに、現代の私たちはこれを非常に価値あるものと見なし、それが与えてくれる精神的な感動や刺激を求める。私たちにとって、芸術は心に活力を与えてくれるものであり、もはや生活の一部ですらある。そう考えると、ヒトは「生きること」に直接役立たないことにまで労力を注ぐ、ずいぶん変わった生き物なのかもしれない。と述べておられる。
後期旧石器時代と呼ばれる4万2000年〜1万4500年前頃のヨーロッパで、クロマニョン人たちは、そこで野生動物の狩りを中心とする狩猟採集生活を送っていた。農耕や牧畜が導入されてヨーロッパが新石器時代を迎えるのはおよそ8500年前以降、エーゲ海でヨーロッパ最古の文明が起こるのは、さらに後の5000年前頃である。
クロマニョン人は、人類として最初に絵を描いた集団の一つと見なされている。彼らの壁画が残っている洞窟は、スペインやフランスを中心に300ほどもある。
その中でラスコー洞窟の壁画群は傑出した存在である。
クロマニョン人の壁画の伝統は古く、4万年以上前までさかのぼる可能性があるという。
芸術は、文明よりも何万年も早く狩猟採集時代から人類により創始されているのです。
「生きること」に直接役立つわけではないことに挑戦し実践できる感性と力を現代の人類の祖先は獲得していたのです。
人間が持つ価値観は、命に役立つかどうかを超えて、個々に多様な広がりを持つことを人類の歴史に学びたい。